カフェ&バル ボタニコ

    午後14時。

    時計は13時55分を指している。
    ランチタイム終了まで残り5分。ナガナワとの待ち合わせは14時。

    朝は基本コーヒーだけの私にとって、お得なランチタイムを逃すことはあってはならない。
    だが、”おせっかい”として私が取材するのは、この日が初。
    ナガナワを待つべきかもしれない。
    ランチかナガナワか・・ランチだな、うん。

    私の天秤は至って調子がいい。

    メニューに視線を落とす。
    アジのバゲットサンド!青魚が挟まったヤツにロックオン・・私は自他ともに認める肉派だが、今回はアジじゃなきゃ嫌だ。

    人間は齢を重ねると要らない情報は脳に届かない。
    こうしてほかのメニューは解読不能となった。
    14時をまわって、ナガナワが来た。
    隣でなにやら賢明に話している。

    ぽろぽろパンくずを落としながらバゲットにかじりつく私に向けられた彼の言葉は、右から左へと流れていくのだった。

    好きが渋滞する空間。

    ボタニコがオープンして3年以上が経つ。

    見まわすと国産自然派ワインの紹介や、クラフトジンのボトルに目が留まる。
    観葉植物とアートで埋め尽くされた店内には、ベースの効いた心地良い音楽が流れている。
    ふと、自宅のリビングジャングル化計画を目論んでいたことを思い出す。
    植物を枯らす魔法の手を持つことが判明し、泣く泣く断念したが、ここはそのジャングルに近い。さしずめジャングルカフェというところか。

    「(この店をカテゴライズするのは)難しい」と話すのはオーナーの野口さん。
    「ここを始めたのは、私を含む3人。3人が好きなものをミックスして詰め込んでたら、掛け算的に広がっていって面白いんじゃないかっていうのが元々あって。」

    「一応、アメリカの南西部のってオープンの時の紹介にはそうやって書いてるけど、まあ多国籍というか、南西部だけじゃない。ボタニコとかバルってスペイン語読みしちゃってるし。でも料理的には和が好きだったりもする。自分たちの好きを全部表現していくみたいな。」
    所ジョージの世田谷ベースみたいだ。
    無論行ったことはないので、よく知らない。なので、このコメントはイメージです、あしからず・・。

    ボタニコは、好きを詰め込んだ、まるでおもちゃ箱。
    ちょっとわくわくする。
    好みが完全に合致しなくても自分の好きに忠実な人の生み出す空間はどこか居心地がいい。

    「お客さんが勝手に、ここが好きとか、かわいいとかを見つけて楽しんでくれてる。毎回来るたびにメニューをずっと本みたいに読んでる人がいたり。」
    野口さんの手書きのメニューはデジタル世代にはホッカイロばりにあたたかいのだろう。

    ボタニコは昼飲みを応援しています。

    国産の自然派ワインって美味しいよね。
    私、好きです、本当に。
    「元々お酒で一番好きなのは日本酒なんですよ。」
    え?日本酒?ここで出すの?
    「自分のタイミングで出してるんです。お正月とか、美味しいのが手に入った時。3種類くらいで飲み比べとかやりますね。」
    正統派ノンベエを目指す私としては国酒としての日本酒を学びたい。
    「いや、教えるとかは無理なんです。辛口と甘口もよくわからないです。ただ美味しいか、美味しくないか。」
    それはよくわかる。

    「(外出先で)美味しいものとお酒を楽しむ。ワインも同じ感じだと思うのだけど、でもワインのほうがワインだけでも飲める。日本酒は、誰かに美味しいものを作ってもらってそれと一緒に食べるっていう感じ。」

    野口さんが20歳の時に初めて寿司屋のカウンターで味わった、日本酒とお刺身のマリアージュ。
    その経験が彼女の、そしてボタニコの原点のように聞こえる。
    産地はどういうところで、誰が作っているかというストーリーが目に見える範囲にあることが、日本酒と国産ワインの共通点であり魅力なのだそうだ。

    2023年プリン革命。

    そして私がお酒と同じくらい愛してやまないのが、コーヒー。
    気が向けば一日に何杯でも飲む。
    飲みすぎて、私、茶色になるんじゃないかと思う。みかん食べすぎて手が黄色くなるみたいに。
    朝と午後と、お酒を飲んだあとにも飲む。
    そしてボタニコはコーヒーも美味しい。
    もう、茶色くなってもいい。甘いものがあれば尚更。

    この日は野口さんからプリンをいただいた。
    プリンとかゼリーとか、強弱やリズムのないはっきりとしない食べ物は、いつもならまず食べない。
    ところが・・なんてこった、ボタニコ!(存在するのかわからないけど)プリンの常識をぴょんと飛び越えたじゃあないか。
    野口さんの作った陶器の上でひときわ輝くはっきりとしない食べ物は、満腹に押し込むためのはっきりと魅惑的な美味しいデザートとして存在していた。
    恍惚、あぁ、なんという幸福。

    ナガナワがいるのも忘れ、ボタニコの世界を堪能したのは言うまでもない。

    文:めぐみ

    【店名】
    カフェ&バル ボタニコ
    【住所】
    岐阜県各務原市鵜沼東町7丁目3
    【定休日】
    日曜祝日
    【営業時間】
    11:00〜21:00
    【Instagram】
    @botanico_unu